スーファミ、白孔雀、犬の心臓

 「ピーチ姫のパンツ」でも書きましたが、私はファミコンにはあまり興味がない子供でした。そんな私でしたが、妹が友人持参のファミコンで一緒に遊んでいるのを脇で見ているうちに、次第に自分も欲しくなってきました。それは友達のを借りて遊んでいる妹も同じで、ついに長年ゲーム機のなかった我が家にファミコンが導入されることとなったのです。その頃私は中学生でした。
当時はスーファミが発売されて間もない頃で、まだそれほど普及はしていなかったと思います。ファミコンの名作である『スーパーマリオブラザーズ』をやっぱり基本でしょという感じで買ってもらった私はやっぱりハマってしまい、『スーパーマリオ4コママンガ劇場』その他マリオ関連書籍を集めるようになりました。そんな中で『スーパーマリオワールド』とスーファミの存在を知った私は、何とかしてそれをプレイしてみたいと切望しました。しかしファミコンを買ってもらったばかりの我々がスーファミを我慢しなければならないのは当然のことです。

 信じられない話かも知れませんが、その頃スーファミはゲーセンにも置いてあるものでした。
近所とはいえないけれど、市内に3階建ての大型スーパーがあって、その屋上にはゲームコーナーがありました。私は時々そこに『SMW』をやりに行きました。遥か昔のことで実際はどうだったのかはうろ覚えですが、印象としてはなんだか薄暗いところでした。ランプが当たりのマスに止まると景品がもらえるルーレットや古めかしいパンチングマシーン、シューティングとか麻雀とかのゲーム筐体などが並ぶそこで、『SMW』を遊ぶことができたのです。確か1プレイ/5分/50円でした。家庭用とまったく同じものなのですから、ずいぶん高い気がします。今となっては、その分を貯金して買えばよかったんじゃないかとも思いますが、しかしその頃の私はちょっとでもいいからとにかくなんとしてもすぐにプレイしたかったのです。
私の他にもスーファミを持っていない子は結構いたようで、そこそこ賑わっていたようでした。順番を待ちながら、「ああっ、そこぁAじゃねぇ、Bじゃ! スピンやこしてどねぇすりゃあな、普通にジャンプせぇ! Bがダッシュじゃったんはファミコンのじゃいうて! ……ああほら時間切れじゃ、いうてもっぺんやるんかい! ええ加減替われぇ!」などと心の中で叫んでいたのを覚えています。
とはいえ、当時のお小遣いではやり込めるほど遊ぶのは到底不可能で、一回にせいぜい100円ぐらいしか使っていなかったと思います。ゲームオーバーにならなくても時間が来れば切れるので、そのたかだか10分ほどのために片道30分かけて自転車を飛ばしていたという訳です。我ながらつくづく阿呆でした。親がいない間に遊びに行って帰ってきて、でも留守番していたはずなのに服が汗びしょなのはおかしい、ということでドライヤーで乾かそうとして下着を焦がしたなんてこともありましたっけ。本当に阿呆でした。というか、このサイトを見ればいまだに根っこは変わっていないことが解りますが。

 まぁしかしさすがの阿呆も10分遊んだだけで帰るのは虚しいと思ってはいたようで、屋上の他の施設を覘いてからスーパー内の本屋やおもちゃ屋を見て回り、駅前の本屋に寄ってそれから帰宅、というコースが多かったように記憶しています。
屋上にはゲームコーナーの他、ペットショップとそれに併設した鳥小屋がありました。 鳥小屋にはコンゴウインコや孔雀などが飼われていました。私は中でも白い孔雀が好きで、幼児の時分にはよく12時頃に行ってみたり、檻の前で手を叩いたりしてみたものです。そうすると孔雀は羽を広げるという迷信があったのでした。迷信なので、その通りにはなりませんでしたが。
ペットショップでは子犬や子猫、小鳥などを眺めて和んだり、いつからあったのかすっかり色褪せて黄色っぽくなっているフィラリアに罹った犬の心臓の標本を見ながら、この犬はいつ生きていたんだろうとか心臓を抜かれた後の残りの犬はどうなったんだろうとかぼんやり考えたりして、それから下の階に降りるのでした。

 そんな日々がしばらく続きましたが、やがてそのスーパーは少し離れた場所にあるより大きな新店舗に移転しました。
新しい店にはペットショップはありませんでした。鳥達は、犬の心臓はどうなったのでしょうか。
ゲームコーナーは広く、明るく、綺麗になりましたが、移転して以来行っていません。

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