喫茶グリーン

 その店の存在は以前から気になっていました。
あまり客が入っている風でもないのに、潰れもせずに続いている。ずっと変わらずそこにある。
その店の名は喫茶グリーン。

 ある休日、買い出しの帰り道で、私はふと喫茶グリーンのことを思い出しました。
「ちょうどこの道じゃし、寄ってみようか…」
そんな訳で、私は原チャリを駐車場に停め、喫茶グリーンの店舗に向かいました。ドアや窓にはスモークがかかっていて、外からは中の様子は窺えません。一抹の不安を抱きつつドアを開けた私を出迎えたのは、予想だにしなかったものでした。
「うっ? ……この臭いは……?」
喫茶店という言葉からは思い浮かばないような臭い。出所はすぐに判りました。
「……ゴルフクラブ」
店内にはおびただしい数のゴルフクラブが。よく見ると、カウンターに「ゴルフクラブ修理承ります」との掲示がありました。
「いかん…幻視じゃ」そこにいるはずがないものの姿がちらつくのを感じながら、私は店内を見回しました。
 恐らく開店当初からほとんど変わっていないであろうインテリア。プレスリーのパネルがやけに目立っていました。
本棚には劇画がつまっており、椅子の上にはぺらぺらでよれよれな座布団が、何故かことごとくずれて載っていました。奥の方の席では、仕事中とおぼしきおじさん達が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいました。
 「なるほど…ここは働く男達がしばしの休息を求めて訪れる場所じゃったか……」
そんなことを考えながら、私は入り口近くの席に着き、カウンターの奥で調理をしていたマスターに声を掛けました。
「すみません、クリームソーダを下さい」
何故クリームソーダにしたのかというと、「グリーン」だからグリーンのものを、と思ったからです。
(そういえば、何故クリームソーダのソーダはメロンソーダと相場が決まっているのでしょうか)
 待つことしばし、私の席にクリームソーダが運ばれてきました。それは特にどうということもないクリームソーダでしたが、サクランボが入っていないのが気になりました。サクランボの赤がアクセントになって全体を引き締めるのに、と思いましたが、「ウチはグリーンだからこれでいいんだ!」ということなのかもなぁ、とも思い、黙って飲みました。特にどうということのない味がしました。
「……そうよなぁ」

 代金を払って外に出ると、日照り続きの空が眩しく、私は「グリーン」の中が見られて良かったという喜びと、自分は一体何をしておるのじゃという困惑気味なわびしさとを感じていました。

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